逸失利益とライプニッツ係数
逸失利益の算出では、ライプニッツ係数という独特の数値を使います。ライプニッツ係数を理解するには、その前に中間利息控除を理解しなくてはなりません。
中間利息控除とは、将来受け取るはずの金額を、現在受け取ることによる利益(中間利息)を、予め控除するという考え方です。言葉で説明するよりも、数字を使って説明した方が理解しやすくなります。
■中間利息控除の考え方
例えば、事故が無ければ1年後に100万円を受け取るとして、事故があったので100万円を受け取れないとき、賠償されるべき逸失利益はいくらになるでしょうか?
貰う側としては、将来の100万円は現在の100万円と考えてしまいますが、現在100万円を受け取ってしまうと、1年後の100万円以上の価値を受け取っていることになります。100万円をすぐ使えるという利益もありますし、先に受け取ることで運用もできるからです。
したがって、現在受け取ることによる、1年後までの利益(利息)を中間利息として、中間利息を控除した額を賠償額とします。ここでもう1つ疑問が浮かぶのは、中間利息はどうやって算出されるのかという点でしょう。
中間利息では、民法で定められている法定利率の5%が採用されており、5%という利率に驚く人もいるかもしれません。なぜなら、現在の経済情勢において、5%の利率で資金を運用できるとしたら、一般には高利回りと分類されるからです。
■ライプニッツ係数とは
ライプニッツ係数は、将来受け取るべき金額と、中間利息を控除した現在の金額との比率を表します。中間利息控除の説明で使った、1年後に100万円の例だとすれば、法定利率の5%を乗じた金額が、1年後の100万円になるためには、次のように計算します。
現在の金額×1.05%=100万円(1年後)
この式を計算すると、現在の金額は952,380円になります。100万円に対する比率では0.952380になり、この値が1年のライプニッツ係数です。
では、2年後に受け取る100万円はどのように計算するのでしょうか?2年後に受け取る100万円は、2年間の中間利息を複利で控除しますので、次のように計算します。
現在の金額×1.05%×1.05%=100万円(2年後)
現在の金額=907,029円
2年のライプニッツ係数=0.907029
同様に3年後の100万円も計算してみます。
現在の金額×1.05%×1.05%×1.05%=100万円(3年後)
現在の金額=863,837円
3年のライプニッツ係数=0.863837
このように、中間利息を控除していく事で、年数が大きいほど現在受け取る金額は少なくなり、ライプニッツ係数も小さくなります。これまでの計算結果を利用して、年収が100万円、就労可能年数を3年とした場合の逸失利益を求めてみます。
952,380円(1年後)+907,029円(2年後)+863,837円(3年後)=2,723,246円
毎年100万円の収入で、3年間の逸失利益として現在受け取る場合は、中間利息を控除した2,723,246円と計算されました。ところで、この計算式は、100万円とライプニッツ係数を使って次のように表されます。
100万円×(1年のライプニッツ係数+2年のライプニッツ係数+3年のライプニッツ係数)
=100万円×(0.952380+0.907029+0.863837)
=100万円×2.723246
=2,723,246円
この結果から年収が変わっても、計算したい年数までのライプニッツ係数を加え、年収に掛けることで、逸失利益を簡単に計算することができるようになります。一般には、各年のライプニッツ係数の総和がライプニッツ係数と呼ばれます。
・ライプニッツ係数表(一部のみ、小数点第3位まで)
就労可能年数 | ライプニッツ係数 |
1年 | 0.952 |
2年 | 1.859 |
3年 | 2.723 |
5年 | 4.329 |
10年 | 7.722 |
15年 | 10.380 |
20年 | 12.462 |
30年 | 15.372 |
40年 | 17.159 |
■法定利率は変更される予定
民法の規定による法定利率が5%であることには、以前から争いがありました。都市銀行における普通預金の利率が0.02%程度(2014年現在)であることを考えれば、5%の利率で中間利息を控除することに対して、不当に利息を控除されていると感じても無理はありません。
しかし、裁判所は最終的に「民法の法定利率によるべき」として、法定利率が5%である限り、5%を中間利息の割合にすると判断しています。この点に対しては動きがあって、長期的な低金利時代を踏まえて3%とし、さらには変動制も検討されています。
法定利率が下がると、中間利息控除が減り逸失利益は増えますから、補償する保険会社にとっては、支払いが増える結果になります。だからといって、保険会社が補償額の増額分を負担するのではなく、保険料が値上がりして加入者が支払うことになるでしょう。
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